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山村清隆氏 日本IBM科学賞受賞

鎌田 賢 (茨城大)

中央大学教授の山村清隆氏が,このたび第13回日本IBM科学賞を受賞されました.

この賞は物理, 化学, コンピュータサイエンス, エレクトロニクスの4分野を対象に, 優れた研究活動を行っている45歳以下の研究者6名に贈られるもので,選考は江崎 玲於 奈先生を委員長, 近藤 次郎先生ら6名を委員とする審査委員会により行われます. 授賞式は昨年12月9日に学士会館で行われ,賞状と賞金, 記念メダルなどが贈られまし た. また読売新聞, 毎日新聞, 日経産業新聞などのマスコミ各紙でも報道されました.

今回受賞対象となりました山村氏の研究は, 「非線形システムの数値解析法の開発とそ の応用に関する研究」と題するもので, 次の5つの研究からなります.

1. 大規模集積回路網の大域的求解法の開発とその実用化に関する研究

LSI設計における大きなボトルネックとして世界中の設計者を悩ませていた「非収束 問題」に対し, ホモトピー法を用いた収束性の高いアルゴリズムを開発し, その大域的 収束性を証明しています. さらに産業界との共同研究により, バイポーラアナログ回路 としては最大級の1万素子クラスのLSIを世界で初めて収束の保証付きで解くことに 成功しています. その解析規模ならびに理論的完成度は, ベル研などの欧米の関連研究 を遥かに凌ぐもので, 海外からも非常に高い評価を受けています. また欧米で使われて いるホモトピー法の回路シミュレータに対して. プログラムのある部分に$-1$を付ける ことにより大域的収束性が保証されることを証明し, その収束性を飛躍的に改善する など, 国内外で「非収束問題」を理論面・実用面の両方から解決しています. なおこの 研究の一部に対して, 昨年5月に本会から論文賞が授与されています. またその成果は アメリカのウィリー百科事典でも紹介されています.

2. 非線形回路のすべての解を求めるアルゴリズムに関する研究

LSI設計における重要な未解決問題として知られている「非線形回路のすべての解を 求めるアルゴリズムの開発」に対し, 線形領域数$10^{200}$の超大規模問題の全解探索 を実用時間内で行うことのできる非常に効率のよいアルゴリズムを提案し, この分野に 大きなインパクトを与えています. $10^{200}$個の候補領域の中からすべての解を求め ることに成功した研究は世界的にも類がなく, 非常に画期的な成果といえます.

3. 多変数関数を一変数関数の和で表現するアルゴリズムに関する研究

1900年にパリで開催された国際数学者会議で, ドイツの数学者ヒルベルトが提起した 有名な問題「多変数関数を一変数関数の和で表現することができるか?」に対し, 実 際に表現するためのアルゴリズムを与え, 工学の様々な分野で新しい可能性を切り開 いています. この研究は一松信先生により数学セミナーで紹介されるなど, 数学界か らも大きな注目を集めています. なおこの研究に対しては, 昨年3月に電気通信普及 財団からテレコムシステム技術賞が授与されています.

4. 線形計画法を用いた区間解析に関する研究

現在情報科学の分野で注目されているテーマの一つに, 区間解析による計算の品質保証 があります. 山村氏はそこでの基本的な方法論として, 非線形方程式を線形計画問題に 置き換え, それに線形計画法を適用するという新しいアイデアを提案し, それまで不可 能だった計算を次々と可能にしています. その成果は主としてBIT, Reliable Computing, JJIAMなどの応用数学, コンピュータサイエンス関連の専門誌で発表され, 国内外で非常に高い評価を受けています.

5. 高分子溶液の多相平衡の計算に関する研究

山村氏は高分子化学の研究者との共同研究により, 難解なことで有名な高分子溶液の多 相平衡の計算問題に対し, その解を瞬時に求めることのできる新しいアルゴリズムを開 発し, 実験では測定が困難な様々なメカニズムを解明しています. その成果は物理化学 の分野の権威誌である Jouranal of Chemical Physics や Physics Letters などで発表 され, また最近も四相平衡の計算に世界で初めて成功し, 物理化学の分野で大きな注目 を集めています.

以上のように,山村氏は非線形システムの数値解析の分野において, 極めて独創的な方 法論を展開し, 顕著な業績を挙げています. また産学協同や他分野との交流を通じて, 産業界にも大きく貢献すると共に, 電子工学, 物理化学, 応用数学, 情報科学など幅広 い分野で多大な成果を挙げています. これらの業績が高く評価され, 今回の受賞となり ました.

山村氏の受賞を心からお慶び申し上げます.