2012年学科同窓会原稿

本年4月より就任いたしました田村裕と申します。どうぞよろしくお願いいたします。生まれは埼玉県の秩父市で高校まで過ごしました。その後、新潟大学教育学部に進学し、同大学工学系の大学院を経て、そのまま新潟大学に就職、新設された新潟工科大学に移り、このたび中央大学にお世話になることになりました。新潟で30年以上過ごしたものですから日本海側の生活習慣が身に付きました。例えば、冬場の雪が降る時期には、前日に天気予報を確認し、朝に降り積もるようであれば、早くおきて自宅の前の雪かきをし、車での通勤に備えます。教員が遅れず出勤できても、電車やバスが止まって学生が来られないこともあり、補講やら再試験やらの日程が組まれます。雪のない生活になってよかったね、と言われましたが、30年生活して雪には慣れました。ただ、冬場に毎日空がどんよりして青空が見えないのには結局慣れませんでした。

私は大学進学時には、中学の数学の教員を志望していました。高校の数学の授業(3年生でしたので、ひたすら問題を解く授業でした)が、先生が問題集一冊持ってきて、黒板で生徒に解かせて解説したり、生徒ができなければ自分で解いたりするものでした。それを見ていてなんか楽な授業だなあ、と失礼にも思ってしまったのが数学の教員を志望した動機の一つでした。

将来何になるかは、大学入学時である程度は決まります。私のぱっとしない志望動機を例にあげて申し訳ございませんが、30年以上前の田舎ですから、まわりにいろいろな業種の大人がいなかったことや自分自身が将来何になるかをあまり真剣に考えてなかったため、たまたま目の前にあった教員という職業を目指してしまったようにも感じています。学部時代に「小学校の時に恩師となる尊敬する先生に巡り会えて、私は教員を目指しています」と言う人の話を聞くと、なんか動機が不純だなあと思ったものでした。

今は田舎とか都会を問わず、情報があふれています。大学の方もオープンキャンパスといった高校生が大学を訪れるイベントを用意します。遠方からの参加者には、無料で送迎バスを出したり宿泊できるようにもしています。高校生は授業やら実験を体験して、入学してからや卒業後について考えることができます。ただ、オープンキャンパスの段階になると、志望する分野がだいたい決まっている高校生が大部分でしょう。電気系のいくつかの学科から志望校を決める、あるいは理工系のいくつかの学科から決めることもあるかと思いますが、興味のなかった分野が志望分野にかわることはあまりないように思います。オープンキャンパスは、高校生が自ら大学まで足を運ぶのですから、興味のないところには来ないでしょう。これとは逆に大学教員が高校を訪問して大学の専門に関連する授業を1〜2時間することもあります。これは高大連携と呼ばれる高校と大学が連携した教育活動の一つとなっています。ただこちらもある程度希望する分野が見えてきた、少なくとも文系か理系かを決めた後の生徒を対象にすることが多いようです。

「将来何になりたいか」は昔に比べて小さい頃から考えるようになってきているように思います。実際に子供が考えるかは別にして、考えさせるような世の中ではあるでしょう。職業体験型テーマパークのキッザニアが盛況であるのもひとつの現れかと思います。その将来像として、技術者を目指す子供が増えればよいと考えています。私は理工系の教員ですので、立場としての発言でもありますが、資源のない日本に科学力、技術力が必要であることも歴然たる事実です。実際、小学生を主たる対象として、科学に興味を持たせるような仕掛けはいくつもみられます。例えば学会や大学が主催して鉱石ラジオや地デジ用アンテナを作るような専門性の高いものや、小中学校と連携して会場に多くのブースをおいて泥団子やスライムを作るような手軽なものもあります。後者を手伝ったことがありますが、小学生は楽しそうに作業をしていました。

このように、小学校では科学に興味を持たせる仕掛けがあり、大学進学を考える頃になると、専門分野を知るための手段があります。この間の期間、科学に興味を持ってから、それを徐々に自分の中で育てて、大学進学につなげていければよいなあ、そのような仕組みはできないかなあ、と考えております。もちろん自分で興味を持って勉強する人には、現状でもロボットコンテストとかプログラミングコンテストのようなものは用意されています。そのような積極的ではない人で、大した理由もないのに理工学部進学を避けてしまう人への動機付けがあればと思っています。例えば、小中高校で工学系出身の教員がたくさん採用されるとしたら、生徒はそのおもしろさや重要性に触れる機会が増えるでしょう。教員免許の取得上の問題もありますが、中学、高校では、必ずしも教育学部出身ではない教員も多いのに、工学系出身の教員は専門高校を除けばあまり(ほとんど?)見かけません。

最後になりましたが、私の専門について少しお話しさせてください。電気・電子回路や電力網の電気電子分野、インターネットに代表される情報通信分野には、ネットワーク構造を有するシステムが数多く存在しています。これらのシステム上のさまざまな問題をモデル化して解析しています。これには、グラフ・ネットワーク理論分野からの研究や、計算機を用いたシミュレーションを行います。つまり、現状の或いは将来の問題を設定しそれを解くことを主としております。問題を設定してもきちんと解けることはまれで、頭を絞って格闘しております。先ほど、「問題を解けばいいのは楽だ」と思って数学の先生を目指したお話をしました。何十年か経って、問題を解くことを生業とする職業にはつきましたが、決して楽ではありません。